2011年02月20日

「最下層アイドル。大堀恵」はマーケティング本だ。

meshibe「地下アイドル」で検索していたら、元AKB48で現SDN48の大堀恵(めーたん)のこの本が目についた。大堀恵も篠田麻里子同様カフェ組だが、AKBに入る前は、地下アイドル“宇宙人の友だち・めーたん姫”でかなり人気があったらしい。この本は、2009年9月発刊だが、直感的に面白そうだったので早速アマゾンで取り寄せた。そして読み進めるうちに、ちょっとコレ、アイドル本としては、極上の内容ではないかと深く引き込まれていく自分がいた。

大堀恵は、ネ申TVで目にしたりしていたが、ショーバトでサタディナイトフィーバーの替え歌を歌っている時に、強烈な印象を受けた記憶がある。「AKBにいたのに〜知れてない〜SDN♪」と歌うフツーの声があまりにセクシーで、このワンフレーズだけで、もの凄い存在感を感じた。

ちょっと前の本なので、一通りのことは語られていると思うから、今の時点からこの本の内容を照射してみたい。

2009年9月あたりは、「言い訳Maybe」がリリースされていた頃だから、AKB48の人気はもうメラメラ燃え始めていた時期だが、この時期で、内部にいた大堀恵はこの本の後半で

AKBは最高の集団だ

と言い放っている。そしてAKBという集団が大好きで、愛しており、最年長で、AKBの下層にいてもどうしてもしがみつきたかったと語られている。そして、この本は、飛び抜けた才能がなくても、ど根性を発揮すればなんとかなるというような人生本としても良質だが、ひまわり組の“干され”時期からAKBINGOでのすべり台事件で、思わぬ注目のされ方をし、AKB初のソロデビュー、1万枚の達成を目指しての彼女の経緯は、マーケティングのケーススタディとして感動しながら読んだ。

大堀恵のサバイバル(しがみつき)処世術はいろいろ書いているが、一番最初に出てくる次の戦略は本当に素晴らしい。

「何ができるか」ではなく、「どこが空いているか」を探せば生き残れる。

どんな集団にだって、そこにいる人、それぞれの役割ってあるよね。だから「自分はこの役割をやりたいんだ」と主張するよりも、全体を見渡して、空席のある役割を探したほうがいい。私の場合、それがチームKのセクシー担当だったってわけ。求められていない場所でがんばったってつらいだけだし、どんなにあなたが優秀でも、すでに埋まっている席を奪い取るって凄く難しい。まずは自分の場所をキープすることを心がけて。案外、それが自分にぴったりの場所だったってこともあるんだから。

これは、クロッシング・ザ・キャズム戦略のニッチ市場の選定のようなもので、戦いを略する理想的な戦略だ。

大堀恵はこの考えを自分の中で固めていたがために、AKBINGOのテレビ出演時、カメラを向けられると、逃げるという不自然な行動をとってしまう。自分はAKBのセクシー担当だから、こういう健康的な番組は場違いでもっと若い娘を映してあげて!とカメラを避けた…

これが逆に受けて、大堀恵は面白いということで、板野友美(ともちん)と並んで、クイズ正解によって角度があがっていくすべり台に座るはめとなる。

普通のアイドルなら、2〜3段階で小麦粉の中に落ちて顔を真っ白にするところだが、しがみつき人生の大堀恵は角度90度になっても落ちず、私は勝ったんだから、早く降ろしてと叫びつつ、力つきて小麦粉の中に激しく落ち、それでも小麦粉の中から手をあげてVサインを見せていた。

この収録時に、たまたま秋元康がスタジオにおり、このど根性を間近で見ていた彼は、彼女に大きなチャンスとなる企画をつくる。

大堀めしべ「甘い股関節」でのAKB初のソロデビューだ。
しかし1万枚売れなければAKB卒業という厳しい条件がついていた。

2008年夏〜頃だからAKBのCDは独占禁止法違反騒動の尾をひき、デフスターとの契約が打ち切られ、不安定な時期でもあった。秋元康としても気分を変えたかった時なのかもしれない。

1万枚は到底不可能という感じになった時、大堀恵はお膳立てされたイベントではなしに、自分であちこちに出かけていって、命乞いのようにCDを売り、メンバーの協力もあって最終的に1万125枚を売る。

そしてAKB48もキングレコードとの契約が成立し移籍第一弾の「大声ダイヤモンド」をリリースし、後の快進撃の序章となる好調な販売となった。

大堀恵の色もののようなソロデビューは家族やそのまわりを犠牲にし、AKBメンバーの一部からも批判を浴びたが、その涙ぐましい必死の姿勢はだんだんと理解と共感に変わり、AKB48の背中を押す力ともなった。

「最下層アイドル。」をマーケティング本としたいのは、これほど切実とした臨場感があるからだ。

大堀恵は今SDN48で活躍している。秋元康が「これからは年上のアイドルが流行る」と言っているように、大堀恵のチャンスはまだまだこれからかもしれない。日経エンタテインメント3月号でも、SDN48のライブは大絶賛されていた。

日本語には本来、“生きざま”なんて言葉はない。しかし、大堀恵のような経験はまさに“生きざま”でそれを本音の場所から綴ってくれたことに感謝したいと思う。

また、この本を通して、AKBがどうして最高の集団なのかもよくわかり、今の人気ぶりの根底もよくわかるのだ。

アイドル本で、ここまで感心させられた本はない。最下層アイドル、彼女から学ぶべきものはあまりに多い。









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1. Posted by やまぐち   2012年07月17日 05:06
仲谷明香の本からamazonつながりでこの本を知り、購入。

感動した。 その上、出版社が啓発書の形を整えて出版していることにも好感を持った。

大堀さんは容姿、知性、体力とも高水準だ。
ただしアイドルをやり続けたいとの思いには無理があり、ゲテモノ扱いになってしまう。
「甘い股関節」は秋元Pにも逆風があったはずで、よくあんなことをしたな、と思う。
でも観衆に想いを伝えるには、当時は、あれしかなかったのかも。
もし、「夕陽」などという歌を歌っても、テレビは注目してくれなかっただろうから。

そういう世間を、汚いものと思うのでなく、研究して対策を打って、勝ち残るぞ、というのが、資本主義の精神だろう。

日本中全ての中学生に読ませたいほどの、良書だと思う。

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30数年広告畑で畑を耕しています(笑)コピーライターでありながら、複雑系マーケティングの視野からWebプランニング、戦略シナリオを創発。2008年2月より某Web会社の代表取締役社長に就任。snafkin7としてのTwitterはこちらからどうぞ。Facebookはこちらから。
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