2011年01月27日

ジャガー2001-1

何のために書いたのか、今は思い出せない(笑)2001年頃に書いて、何かに応募して途中選考で落っこちた小説です。たまたまファイルが出てきたので、5回に分けて入れておきます。たまには、こんなのもいいか(笑)たま〜にとんでる文字や記号がありますがご勘弁を。



 「ジャガー」

 いつからか、僕は海の近くで不定期に行われる秘密のパーティに顔を出すようになっていた。海といっても大阪・南港の外れだから、錆びた海だ。でもパーティは夜なので会場から黒い液体が不安定に揺れているのが見える程度だった。
 都会にありがちな埋め立て地のその場所は、意外にも緑の多い公園だった。正式なイベントの時には、入り口の細い通路にカウンターを設けて、チケットのチェックをしたりするのだけど、僕たちが出入りする時は、その通路は真っ暗だった。みんなミニライトをポケットに入れていて、公園の端にあるテントを目指す。もちろん無料だった。
 流れているのはミニマル系のテクノだ。クラブのように特に流行りがあるわけではない。DJも名のある人が回しているわけではない。約六時間の間にそれぞれお気に入りのループが流れれば誰も文句は言わない。ラップトップコンピュータに設定した音をそのまま流している時もよくある。音に強いこだわりがあるわけではない。ヨーロッパのクラバーがフロアで涙した曲も大型のレイブでアンセムとして流された曲もここでは、いい感じのダンスミュージックだった。醒めているわけではないが、それでここの参加メンバーが大きなエネルギーにすることはまずなかった。
 みんな世の中の動きに敏感でありながら、世の中からかなり離れた距離を持とうとする、ある意味不思議な集まりだった。ミーコは複雑系経済学を専攻する大学院生だし、タケシは、現象学の立場からカウンセリングをしている精神科医だし、マキは結構メジャーな広告コピーを作っているコピーライターだった。あと、本当かどうかわからないがギャンブルで食べているヨージやレイブの季節に服や小物を売って稼いでいるナーコがいた。僕はというと、食品会社の地味なマーケッターだった。他にも参加者は数十人いたが、僕にとってはこの数人が特に親しい仲間みたいなものだった。踊るのに疲れて休んでいる時に、ここに来る理由を何回か訊いたことがある。
「ここのこと、何で知ったの?」
「ネットの掲示板ん」
「お気に入りのサイトがあるわけだ」
「ゴア系のサイトなんだけど、いろんなイベント情報が載ってて、一風変わってたからね、ここの告知ぃ。『リアリティはないが、楽しいかも』って、なんのこっちゃわかんないけど、とりあえず来てみたら、それなりに楽しいしぃ」ミーコは呆れたように笑いながら話してくれた。
「あなたは?」
「有料の大きなイベントでこの公園に来た時、トイレに行く途中、このパーティの小さなフライヤーを茂みの中でみつけた」
「フライヤーなんてあるの、このパーティに」
「ほとんど手書きみたいなものだったけど、同じ事が書かれてたよ『リアリティはないが楽しいかも』って」
 正直、誰が主催しているパーティかよくわからなかった。というか興味がなかった。参加すれば、いつものメンバーがいるし、時々いいミュージックが流れるし、夜景がそれなりに綺麗な場所で星が美しい時は、本当にいい空間だった。大きな橋の下でもあり、自分たちと関係のないように音もなく走りすぎていく車を見るのもなんだか愉快だった。次回の開催日を人づてに聞きながら、何気に参加するだけだ。このパーティがなくなっても、そんなに困るわけでもない。ただ、人に知られていないパーティというだけで毎回ワクワクした。どんなに爆音を出しても回りに民家はないし、道路からも離れているし、もちろん向こう岸の工場地帯にも響くわけもない。吃驚するとしたら、不法入国者くらいだろう。不法入国者がこの公園の岸から上がってきたのを実際見たことはないが、それを示唆する看板はいくつかあった。
 ある時、いきなりナーコがこんなことを訊いてきた。
「これから、どうなると思う?」
「これからって、漠然としてるけど、経済のことならミーコが詳しいし、社会現象ならタケシが詳しいし、音楽のこと?」
「なんとなく感想を訊いてるだけヨ、ミーコにもタケシにも訊いたけど、みんな生返事だったからぁ。音楽のこと、あんたに訊いたって仕方ないでしょ、あーあ」ナーコは笑った。確かにナーコの方がダンス系、クラブ系音楽のことは詳しい。大きなレイブに参加してる数も違うし、DJの知り合いも多い。
「今より、うちの食品が売れるってことはないかもな」僕は少し悔しかったので、あえて惚けてみせた。
「マキにコピー書いてもらったら?マキの書いたのって結構ヒットしてるしぃ、みんなコンビニ製品だけどね」ナーコは再びニヤリとした。
「あーあ、トオルも夢ないんだなぁ」ナーコは本当に夢がなさそうに言った。
「夢は遠くにあるもんさ、だもん」
「上海かぁ」
「いいや」
「西海岸かぁ」
「いいや」
「デトロイトかぁ」
「あるわけないよ」
「じゃあ、どこだぁ」
「あるところに、ある」
「バカか、お前は」ナーコは一度うなだれながら、
「叫んでやろうか」
「何を」
「トオルはバカだって」
「叫べ、叫べ」
「叫ぶぅ、叫ぶぅ」僕はナーコの頭を一瞬、両手で万力のようにねじって、すぐに離した。ナーコもミーコもマキもどちらかというと、美人系だった。特にナーコは、踊ってる時が極端に野性美を放っていた。レイブを取り扱ってる雑誌にも何回も載っている。野外で踊っている彼女の写真は本当に絵になった。凄く自然で、トランス状態でもなく、疑問を投げかけているような視線は、どの雑誌でも異彩を放っていた。「あなたは何が楽しくて生きてるの」といえば大げさだが、もし彼女が森の主であったならば、そのままずっと森で踊らせておきたいような存在だった。
 おそらく、夢は無理矢理に見るものではない。寝ている時に無意識の力で映像化される夢と同じように自分の意志を強固にしても仕方ないと、いつからか思うようになった。それは古典的な喪失感や虚無感や絶望感などでは決してなく、不思議な到達感なのだ。新しいことはいっぱいあるが、夢を見れるような新しいことがあると思えないような気分だった。テクノのイベントで北京や上海を訪れたれた時、その思いは強くなっていた。ワンフーチン通りやホワイハイロー通りの希望あふれる若者の顔を見た時に愕然とした。人は、心底、希望に満ちている時、こんなに輝いた笑顔をするのかと。流行歌が街に流れ、手をつなぎながら、楽しくウィンドーショッピングするカップル。その力強い足取りは、東京や大阪では見れない光景だった。それはクラブに行ってもそうだった。僕たちのなじみの日本人DJが熱狂的に迎えられ、そのサウンドに痺れるくらい酔いしれているのは、現地の若者だった。日本でもかなりの陶酔状態でパーティは進行するが、そこに確かな未来を感じることはないだろう。北京や上海のクラブにいると、不思議な未来感覚が流れている。理由はよくわからない。しかし、彼らはサウンドのシャワーを浴びながら実感している。そう思うと僕は余計に、自分に流れている血がもの凄く鈍いもののように思えて腹立ちさえも覚える。僕はいつから未来を忘れたのだろう。かといって、タケシにカウンセリングしてもらうほど、病んでいるわけでもない。というか、タケシは僕みたいなタイプがいちばんやっかいだとも言った。
「お前、どっかで自己治癒させてるからなぁ、おかしな夢見たって、絶対に黒い太陽なんか見ないだろ」 
「乗り物の夢見たって、必ず運転手はいるからな、変な運転手であっても」
「だろ、箱庭つくらせたって、お前、絶対、これはこうだろって計算してつくるから、そんなの洞察するだけ、無駄だからな、どでかい箱庭でないと、本性を現さないというか」
「どでかい箱庭なら、熱中できるかもしれない」
「どでかい箱庭つくる気があるんなら、街でもつくれ」タケシは、本当にカウンセリングしてるのだろうかと思うほど、時々ぶっきらぼうになる。当然だとも思う。タケシはいつも、自分の仕事に疑問を持っていた。それを発散しに、このパーティに来るのだとも言っていた。
「俺のいちばん尊敬する精神科医のレイン、お前も読んだことあるだろ」
「彗星のように学会に現れて、社会が狂ってると言い残して、患者と結婚したレインだろ」
「もう今は死んじゃったし、彼の方法論は、彼のみって気もするし、あれクラスの精神科医は、もう出ないって気もするね、俺のやってることといえば、あまりに現実すぎるし」
「現象学派、現実に悩むか・爆・だな」タケシの気持ちはわからなくもなかった。僕の大好きなフランスのマーケッターも若くしてクリーニング屋の車に轢かれて死んでしまっていた。彼も変わったマーケッターで、死に遭遇するまでは、自分自身をマーケティングしていた。タケシも僕も、彼らの方法論というより、この国では希有な誠実さに惹かれていたのだと思う。ここに集まってくる人間は、どこかに諦めを持ったものが多いに違いなかった。確かめたわけではない。でもどこかで妙に気が合うのは、そういうことではないかと思っていた。
 パーティは金曜の夜11時からスタートし、朝の5時まで続き、長いときは、チルアウトをかねて、7時まで続くこともある。そしてみんなでファミレスに行くこともなく、各自、車やバイクに乗って、人の気配のしない大通りを何事もなかったように帰っていくのが通例だった。早く眠りにつきたい、ただそれだけの理由なのだが。 
 不思議なことに、仲のいい人は、恋愛関係になることはなかった。恋愛に似た感情はあるが、あくまでパーティでの出会いを大切にしていた。でも、それは僕が知らないだけかもしれない。が、もしそういう関係になっていったらとしたら、段々とこのパーティに参加することはなくなるはずだ。僕たちの目的はおそらくそんなことにない。漁師が釣るのに最高の潮を待つのと同じように、サウンドと身体や感覚とのベストなハマリを待ち望んでいた。これは僕の勝手な意見だが、呼吸、鼓動、血流のリズムを肌で感じながら創られたサウンドは、踊っている時に見事にハマル瞬間がある。そのリズムは進化論的に魚の頃の波のリズムの感覚だと言っていた学者がいたが、たぶんそれは正解なのだと思う。陸に上がった人間は、いまだにその波のリズムを忘れられないでいる。その魚時代の身体をくねらせる習慣、それを思い出すために、ダンスをしていると言えば、頭がおかしいと言われそうだが、なんとなくそんな気がしている。空気が必要になった僕たちは、延々と水の中で踊れない限り、音の水流を創りだし、その中で快適に泳いでいるのかもしれない。細胞の奥の奥がひもだとしたら、僕たちは、気持ちよく揺れていたいのだ。そんなシンプルな快感に酔っている僕たちがいるとしたら、浮き沈みの激しい恋愛をわざわざ好んでする必要もなかった。僕たちの感覚が魚まで退化しているとしたら、セックスそのものに大きな価値はなくなっている。欲求があったとしてもだ。
「お前、UR(Underground・Resistance)のことどう思う?」いちばん不真面目そうなヨージが、いちばん真面目な質問を投げかけてくる時がある。
「俺にとっては、黒人だけのレジスタンス運動みたいにしか実感わかないな、モジュレーションの映画見たけどなぁ、やっぱ黒人特有の未来感なんだと思う。」
「そうだよな、そうか」
「だって、タイム・スペース・トランスマットって、口ずさんで、なんか快感を感じるか?」
「ところが…」
「感じるのか」
「おかしいか」
「おかしかないけど…」
「アンダーグラウンドの音楽運動でレジスタンスっていうのは、おかしいよな」
「おかしいというか、もし感じるとしたら貴重な奴だよ、お前は」
「貴重か、そうか、貴重か」
「ああ、貴重だ、デトロイト・テクノの歴史は長いけど、日本でURを肌で感じてる奴なんて珍しいぜ、ファッションとしてはあってもな、たとえ、リキッドでURの精神をみんなでコールしたって、足を踏みならしたって、それはそれでイベントであって、そのまま街に出て、それ実践できないだろう」
「そりゃそうだけど、ジャガーなんて曲なんかだと、俺は映像が出てくるんだ」
「CDに入ってるプロモか」
「バカいえぇ」
「なんか闇をひた走るジャガーだよ」
「そうか」
「いいだろ」ジャガーは名曲だったが、ヨージのようにイメージを膨らませたことはなかった。そう言われれば、デトロイト系の曲は、時空を超えるスピード感でどこかに突き進む曲が多い。それは身近な現実からいち早く夢の時空へトランスするためのものかもしれない。そんなヨージにはギャンブルは相応しかったかもしれない。彼はただのギャンブラーではなかった。ギャンブル工学みたいな立場で、波をできるだけ調整しているような人物だった。確率論で割り切れないもどかしい部分をも冷静に見る才能があった。
「相変わらず、調子がいいんだって」
「ただ、ひどく疲れる」
「だろうな」
「いつかは、どこかに行くよ」これはヨージの口癖だった。誰もがどこかに行くもんだと思うが、彼のこの口癖は、なんとなく好感が持てた。彼はある地点で過去を踏み切る力がありそうだったからだ。このパーティも彼にとっては、ちょっとした休憩場所だったのかもしれない。振り返って、懐かしむタイプでもない。彼がいつかどこかに行けば、彼はその先しか見ないように思えた。
 特に変わった事件も新しいニュースもないまま、パーティは不定期であるが、ある間隔をあけて継続されていた。季節によって公園の芝の匂いや星座の種類が変化する程度だった。夏には上半身裸になるものもいれば、冬には焚き火スペースが設けられるだけで、回数を重ねるごとに、パーティの質が変化していくことはなかった。それが、この春から、明らかに人が増え始めた。そして新しい参加者はいちように無口だった。しかし、ハウスを通過してきたのかダンスは軽やかだった。サイケ組やトランス組のように型にはまっていることはなかった。音に合わせて自分のスタイルをつくりながら、時折壊しながら、イベントを自由に楽しんでいるようだった。
「不法入国者さんかな?」マキは冗談まじりに言った。
「踊りの旨い、不法入国者さん?」
「カナダ人のリッチー・ホーティンが週末になると、デトロイトに通ってたそんな感じかな?」
「また、大げさに言うわね」マキは呆れた気持ちを素直に表情に出していた。
「どこから見ても外人のようには見えないわよ」ミーコが言うと、ナーコもそうそうと頷いて見せた。
「でも明らかに増えたよな」タケシは不服そうに語り始めた。
「淡々と踊ってるしな。別に休憩するわけでもないし。不思議な奴らだよ」
「URの使者かもしれないな」ヨージは冗談か本気かわからない口調でつぶやいた。僕たちは、彼らが参加するようになって、6人で話すことが多くなった。普通なら彼らに話しかけて、いろいろ訊きだすところだが、彼らはいつもどこからともなくやってきて、踊りを続け、まだ暗いうちに帰っていき、コミュニケーションをとろうと思ってもとれない状況になっている。別に激しく騒ぐわけでもなく、逆に、パーティを盛り上げていくので、何の不満もないのだが、まったく会話がないので、ちょっと不気味な感じがした。唯一、コンタクトをとろうとしたのはナーコだった。彼女は彼らがステップを踏んでいる群れの中に入って、彼らをみつめながら踊り続けた。どんなに真面目な奴でもナーコが近くで踊ってると、気になって彼女を見るのだが、それでも彼らは自分の世界をつくっていて、ニコリともしなかった。発散しているわけでも、何かに怒りを感じているわけでもなく、サウンドにあわして綺麗に踊っていた。
「ある意味、いいダンサーだね、彼ら」ナーコは笑っていた。
「気にすることもないんじゃない。私たちだけかもよ、気にしてるの。パーティさえうまく進行していれば、別にいいんだし」ナーコの言うことはもっともだった。6人でそんなことを話せば話すほど、僕たちがこのパーティから遠い存在になっていきそうだった。
「ストレンジャー・笑・いいかも」マキはフレーズを創ろうとしてやめた。


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コメント一欄

2. Posted by snafkin7   2011年01月29日 19:22
5 いやはや、ありがとうございます。

書きたい時は書く、ということにしているので…たいしたものではないですが…
今年はなんかテーマがあるので、6月くらいまでに書いて、はまるところに応募しようかと思っていまふ

長い文章、おつきあいいただき、ありがとうございました☆
1. Posted by 副業 在宅   2011年01月29日 19:11
小説読まさせていただきました!
面白かったです♪
私も今度小説を書いてみようと思います。

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30数年広告畑で畑を耕しています(笑)コピーライターでありながら、複雑系マーケティングの視野からWebプランニング、戦略シナリオを創発。2008年2月より某Web会社の代表取締役社長に就任。snafkin7としてのTwitterはこちらからどうぞ。Facebookはこちらから。
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