2010年12月23日

AKB原論-微積分マーケティングの勝利

この論考を書くきっかけとなったのは、チームA・チームK・チームB それぞれの2時間ライブを均等に何回も見ようとしたが、できなかったことだ。はじめはそれぞれを比較するために同回数見る意志はあったのだが、どうしてもチームBのライブばかり見ている自分がいた。しかも今までチーム名を意識していなかったが、自分が好む人達(渡辺麻友・北原里英・佐藤亜美菜・宮崎美穂・平嶋夏海・小森美果・佐藤すみれ)がすべてチームBに所属しているのに驚いた。

これはひょっとして、この3チーム、緻密にブランド分けされてるな…

で、仕事でよく使うCONSERVATIVE←→AGGRESSIVEの座標をひっぱりだしてきた時、ああ〜、と納得した。この座標では私はあらゆるジャンルに対してPERFORMANCE STAGEのものを好み、選んだ大学でさえ気がつけばこのラインだった。好きな芸人でさえ、このラインの松本人志、ビールもコロナビール。

秋元康自身はマーケティングしていないと言っているが、感性マーケティングは緻密におこなっていて、いわゆる商品をクラス分けする時に便利なEMOTIONAL MATRIX通りにきっちりと棲み分けされていることに改めて感心した。

正統(伝統)派アイドルライン Aチーム
前田敦子・高橋みなみ・小嶋陽菜・高城亜樹など

日常・自由派ライン Kチーム
大島優子・板野友美・宮澤佐江・峰岸みなみなど

そして表現・ストリート派ライン  Bチーム
渡辺麻友・北原里英・宮崎美穂・佐藤すみれなど

まずこの3チームはCONSERVATIVE←→AGGRESSIVEの横軸をすべて網羅している。
しかも、NMB48は2011年元旦から始動するが彼女らの初ステージはA-3rdと呼ばれている演目だ。チームAのものが選ばれているということは、プチ伝統派あたりを設定されているかもしれないなと予想がつく。またSKE48は日常派の下部を満たし、ダブル松井などはその典型でないかと思う。

秋元康が「ニッポンアイドル興亡史」で3つにくくることの意味を力説していたが、それが今ようやくわかった。例えば、森昌子・桜田淳子・山口百恵  野口五郎・西城秀樹・郷ひろみ これらの御三家が成功したのも今書いた順にCONSERVATIVE←→AGGRESSIVEを満たしている。この3タイプがあれば、ほとんどの人は誰かを好きになり、市場すべてを活性化させることができるのだ。

しかし、昔と今は違う。

昔は山口百恵がPERFOMANCE STAGE(表現・ストリートライン)を一人で代表できたが、現在は、それをさらに微分しなければ、このステージを活性化させることができない。AKB48では、それを16のキャラに微分している。そして、渡辺麻友や平嶋夏海と旧Bチームの仲川遙香・菊池あやか・多田愛佳などはここからスピンアウトユニットとして、渡り廊下走り隊を結成しているが、これは正真正銘のプチ伝統派アイドルユニットとなっている。チームAの指原莉乃が「これぞ可愛い正統派アイドル」と言っているが、この言葉は全く的を得ている。

AKB48は無駄に大勢いるわけではない。

例えば、現在必ず選抜の上位にいる篠田麻里子、渡辺麻友、なんかはオーディションで落ちている。渡辺麻友は2次オーディションで落ち、あきらめきれず3次オーディションでなんとか合格した。これは見る目がなかったわけでなく、A・K・Bの振り分けの中でもう既にそのラインのキャラがいて、重複するので、落としていたという感じではないかと思う。篠田麻里子も1期生では、前田敦子・高橋みなみ・小嶋陽菜・板野友美が揃った時点で、どうしてもいるわけではないという判断をされていたのかもしれない。ファンの後押しで1.5期生として入っているのは笑うが…

しかし、3チームの1チームに16人も本当にいるのか?

これは、メディアの力とターゲティング規模の問題に関わる。山口百恵の時代などは、TVとRadio、雑誌の宣伝で、シングルを出すたび、50〜60万枚は軽く売っていた。引退の時の「蒼い時」という自叙伝は200万部以上売っている。ミリオンセラーが実現できたいい時代だ。

しかし記憶に鮮明だが、パルコ出版のマーケティング誌「月刊アクロス」が世の中の蛸壺化(オタク化)現象が顕著であり、もうフレームでくくれないので廃刊宣言をしたのが1998年。この頃にはインターネットも普及し始めており、100万人以上を相手にするマーケティングが終焉しはじめていたのだと思う。

そして携帯コンテンツのヒットメーカー津谷祐司が書いた「なぜ、ネットでしかヒットは生まれないか」2008年時点では、対象はもう10万人規模まで落ちている。

今はさらに細分化している傾向があり、せいぜい3万人規模まで落ちているのかもしれない。ツイッターのフォロー数を見ると、篠田麻里子・小嶋陽菜で15万人以上は超えているが、元AKBの大島麻衣は1万7千人程度、SDN48の佐藤由佳里で2万人、よくつぶやく黒木メイサですら3万人といったところだから、AKBの平均をとれば一人あたり2〜3万人のファンを引きつけていると計算できる。

2〜3万人×16人×3チーム=96万〜144万 でミリオンは可能な計算となる。

そして、AKB48がよく考えられているのは、出演する番組、メディアによって、メンバー構成が自由に組み替えられているところだ。

しかし、これは最初に書いたように綺麗にクラスター分けされて、その中のメンバーのキャラクターもかぶらないように設定(微分)されているから、自由に編成(積分)することができるのだ。

これは単に多様なニーズに多様なキャラで応えているといった程度のマーケティングではない。多様なニーズの幅、位置、質まで計算されていて、それに対応するようにキャラを置いているところが凄いのだ。

AKB48とアイドリングの大きな違いはそこにある。

企業の商品にあてはめると、例えばユニクロでさえ、ここまで緻密なマーケティングはおこなっていない。カスタマイズ対応というのは流通でもあるだろうが、あらゆるステージを網羅しているような事業を展開しているところは稀だと思う。

AKB48という百変化ユニットは、メディアに最適な編成を用意してみせ、とれるべきターゲットの端から端までを活性化する力を持っている。

マスコミの時代は終わったなど、小学生でも言うし、そんなことの宣言合戦をしていても何の役にも立たない。AKB48はその終わったメディアの有効な使い方を実践してみせたのだ。あれだけ嫌っていた辛抱アナですら、最近は沈黙せずにちゃんと認めているようだ(爆)

メディアに左右されない強みというのは、AKB48は市場の鏡そのものだからだ。

AKB48は活性化できる市場規模の姿と同じ姿を持った鏡なのだ。
そして、そのフォーカス、波長がパチッとあったのが2010年だったといえる。

ネ申テレビ・シーズン5の11回目で、そのへんの感慨を大島優子がしっかりと語っていた。「こんなに要望が多く、その要望に応えられた年は初めてで、そんな時はもうこないんじゃないか」と…「でもやるだけやったんだし、思い残すことはひとつもない…」

来年になると、各ステージで新しいことがおこり、AKB48もゆるやかに波長が狂ってくるはずだ。しかし、それも自己組織化という力が働きクリアしてしまうかもしれないという期待もある。

チームBには「チームB推し」という歌がある

大勢いると迷うでしょ?
誰か一人を応援して!

私のことを好きになって
推してくれたら 嬉しいです

一生懸命 夢を追いかけています
成長してるチームB 観に来てください
どんなに売れても ここで歌っています
結局 誰もみんな チームB推し ですよね?

まだまだサプライズがある限り、ちょっとやそっとのことで廃れない気がするな。多様化ニーズの時代に発信する側がどう対応化したらいいか、マーケティングのいいお手本をみせてしまったAKB48。

この社会に希望の火花を散らした功績はあまりにも大きい。

そして私は2011年もチームBの渡辺麻友(まゆゆ)推し だ(笑)

7人になった渡り廊下走り隊7のバレンタインソングにも大いに期待している。

今年ブログを読んでいただいたみなさん、ありがとうございました。まとまった原稿を書くのは今年これが最後だと思います。来年もまた斬新な視点で、書いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。よいお年を!!







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コメント一欄

7. Posted by karakara   2010年12月25日 09:19
詳しいデータありがとうございます。
おーっ!
30年も昔の曲なのに さすがにミリオンの曲は全く興味,関心のなかった曲まで 全て知っているなぁ…と 感慨新たです。

それに比べてこの頃の曲は私の勉強不足からか 知らない曲,歌手のなんと多いことか…

今年のオリコン年間50位までを見て 歌手はほとんど知っていたけど 曲は3曲くらいしかわからなかった…

年なのか・・いやいや昔は年に関係なく知っていた・・

時代なのか,私の個人の偏狭さなのか,でも友人も知らないなぁ・・

などと ふと考えてしまいました。
6. Posted by snafkin7   2010年12月24日 20:18
5 karakaraさんへ

ありがとうございます。

ちなみにその年代、代表的なものを調べてみました。

1970年代上半期

うそ 中条きよし 154万枚
わたしの城下町 小柳ルミ子 134万枚
女のみち ぴんから兄弟 325万枚
あなた 小坂明子 164万枚
なみだの操 殿様キングス 197万枚
昭和枯れすすき さ&一郎 100万枚
シクラメンのかほり 布施明 105万枚
北の宿から 都はるみ 143万枚

1970年代下半期

大都会 クリスタルキング 155万枚
ウォンテッド ビンクレディ 120万枚
UFO ピンクレディ 155万枚
渚のシンドバット ピンクレディ 100万枚
サウスポー ピンクレディ 146万枚
モンスター ピンクレディ 110万枚
魅せられて ジュディオング 155万枚
思い出酒 小林幸子 100万枚
北国の春 千昌夫 130万枚
ルビーの指輪 寺尾聰 134万枚
待つわ あみん 108万枚
さざんかの宿 大川栄策 120万枚
矢切の渡し 細川たかし 102万枚
大阪しぐれ 都はるみ 114万枚

おっしゃるように、ミリオン中の演歌比率は高いですよね。
ただ、ピンクレディにかたよりますが、1977〜78の絶頂期は10曲連続ミリオン売ってるようです。
でも、百恵さんは数出してますが、ミリオン自体は確かにないです。少し誤解のある書き方だったと思います。すみません。百恵さんの枚数は
http://p.twipple.jp/zNDAM
に一覧であげておきました。

AKBの場合はCD→ダウンロードメディアになっている中での数字ということで快挙だと思います。
コンサート会場や握手会風景を見ると、最近はファン層が限られているわけでもないなぁという気はします。もともとオタ系、サラリーマンと年齢が高かったと思いますが、昨年辺りから女子中高生、低年齢層にかなり広がっていっている傾向にあるように思います。
5. Posted by karakara   2010年12月24日 19:13
「なるほどなぁ」と思いながら読ませていただきました。
3つのチームで御三家,三人娘をカバーし,1つのチームが昔の一人を構成しているというのが,特に納得…でした。

ただ,
〉百恵の時代などは、TVとRadio、雑誌の宣伝で、シングルを出すたび、50〜60万枚は軽く売っていた。引退の時の「蒼い時」という自叙伝は200万部以上売っている。ミリオンセラーが実現できたいい時代だ。

というのはその時代が青春時代だった私は「そうかな〜」と感じるのです。
あの頃,中高校生は 今のように どんどんレコードや本は買えなかった。
今のように どんどんミリオンセラーが出る時代ではなかったと思います。
それだけに 私が全く興味のない演歌でもベストテンに入っている曲は聞いたことのある歌だったし,五木さんや森さん,八代さんなども知っていたいたし,逆に私の祖父母でも 百恵ちゃんやピンクレディさんや郷ひろみさんなどを知っていました。
 だから AKBさんのようにある程度ファン層が限られていながらミリオンを連発していることの方が私のような世代から見ると不思議な気がしてしまうのです。
今の方がマーケティング的には購買層が低く広がっているのかなぁと感じるのですが…。



4. Posted by snafkin7   2010年12月23日 13:04
5 松本さんへ
ありがとうございます。出版ビジネスも本当にそうですね。パイが小さくなってきて、嘆いているだけでなく、頭の働く人は、再生のことを考えて分解して、それを上手に組み立てていきますね。そして市場を広げる。それはおそらく人間というものを知っているからだと思います。十人十色はあっても百人百色ではないことを知っているからだと思います。人間の感性パターンは十は超えないんですね。好みは百あってもパターンは十以下です。おそらく。6〜7に集約していく人もいますし、秋元康みたいに、王道の3パターンに集約していく人もいます。経験値がそうさせているのでしょうけど非常に面白いです。

kasttbsさん、ありがとうございます。
日本で3人、トリオでくくった最初は、美空ひばり、江利チエミ、雪村いずみのジャンケン娘の映画が最初らしいです。これが日本のアイドル史に延々と受け継がれていく。ジャンケン娘からジャンケン大会までロングで見渡しながら、理想のアイドルを追求する秋元康というのは、しゃれがきいているというか、見事なものだと思います。
今は組み立てこそがクリエイティブの発揮どころですよね。それには過去も充分熟知しておかなくてはならない。若い世代の時代であると同時に、私も含めて古い世代にも大きなチャンスがある時代です。とにかく悲観せず、きっちり見ていることがとても重要な時代なんだと思います。
3. Posted by kasttbs   2010年12月23日 11:26
5 「数」「質」「バリエーション」「組合せ」「裏方」「IT」がキーワードでしょうか。
アイドルでいえば、木村カエラが出てきたときに「質」は変わると思ったのですが、そうでもなかった。
「数」と「バリエーション」さらにその複雑な「組合せ」こそが現時点での肝かと。

新御三家の例を出していただき、僕のような年代でも非常に面白く読めました。

>AKB48は無駄に大勢いるわけではない。

無駄に大勢がいかに多いかw。
2. Posted by 松本   2010年12月23日 11:10
(続き)
そういう意味で、この先は、小さなロットでどのように商売を成り立たせるのかというビジネスモデル論になってくるような気がします。たとえば上記のオンデマンド印刷にしたところで、1部単位で印刷原価は償却できても、その他の固定費は償却できないわけです。たとえば編集費を捻出しようと思ったら、数百部は売らないといけない。旧来の方法では無理がくるんですね。そこで、じゃあそこをどうしようか、自動生成技術で抑えるのか、ユーザー作成型にするのか、みたいな組み換えが必要になってくる。そんな話だと思います。そのときに、自分の立ち位置が問題になる。たとえば、印刷業者の立場なら、ユーザー作成型でOKなんです。そうやって成功したのがアメリカのLulu.comです。
で、このあたりで、「積分」の話になるわけですね。小さなロットだけで収支が取れないとき、固定費の部分を共通にして小さなロットを積分し、それぞれのロット内での収支がとれるように組み立てる枠組みを作るわけです。こうやれば、本来収支の取れない小さなビジネスだったものが、収支が計算できる大きなビジネスになります。

というようなお話として、我田引水式に読ませていただきました。
1. Posted by 松本   2010年12月23日 11:09
アイドルもマーケティングもわからないんですけど、マス(升)が小さくなってきた流れは実感としてわかります。トップの方で百万単位のベストセラーが出ていた1980年代、書籍出版でモトがとれる最低部数は4〜5千部でした。これがじわじわ下がって1990年代末には2〜3千部になっていくわけですね。一方私は500部でモトがとれる方法を模索していました。たぶん、ごく限られた局面ではその方法は機能していたと思います。そして、2000年代には、印刷コストということだけでいえば1部単位でモトがとれるオンデマンド出版の技術が確立しています。全体コストを収支計算に入れたときにどうなるのかというのは別問題ですが、ともかくも、単位が小さくなってきたのは間違いない流れですね。
で、上記の流れに関しては、当然、技術的な背景があるわけです。活版→写植→DTP→オンデマンドと技術が移っていくにつれ、印刷がらみの固定費が下がっていったわけです。これが、ロットを小さくすることを可能にしてきたと。逆にいえば、「マス」の時代は、量を捌かないことには原価が計算できないような技術しかなかったからマスであったわけで、文化の変化と見えるものが実は技術の反映なのだ、といえるのかもしれません。(続く)

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30数年広告畑で畑を耕しています(笑)コピーライターでありながら、複雑系マーケティングの視野からWebプランニング、戦略シナリオを創発。2008年2月より某Web会社の代表取締役社長に就任。snafkin7としてのTwitterはこちらからどうぞ。Facebookはこちらから。
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