あなたは何の「目撃者」でしたか?
日本映画専門チャンネルで放送した「秋元康が語る!ニッポンアイドル興亡史」という30分番組を繰り返し見ている自分がいる。
アイドルが3人でくくられてきた意味、アイドルグループのセンターの意味、アイドル記録映画の意味など、アイドルの歴史そのものにもひかれるが、番組後半に聞き手の軽部真一が、「秋元さんの人生って何ですか?」という質問に、「いろんな目撃者でいれたこと」と答えている。
「放送の台本を書きながら、目の前に山口百恵を目撃できたこと、キャンディーズのセンターがスーちゃんからランちゃんに変わったことを目撃したこと、松田聖子ちゃんから松田聖子さんに変わったことを目撃したこと、おニャン子クラブの一部始終を目撃できたこと、美空ひばりのプロ根性を目撃できたこと、AKB48のブームを今まさに目撃していること…」「それが僕の人生であって、みなさんの人生というのも、それぞれ対象は違っても、その何かを目撃したこと、が大きいじゃないでしょうかね」
フツー、「あなたの人生って何ですか?」という質問に、もう少し価値づけた答えをするところだが、「〜の目撃者であったこと」とフラットな答えをする秋元康に現象学を極めた人みたいだなという感想を持った。ありのままを見つつ、時代で大きくうねったその姿を景色をありのままに目撃できた自分が自分の人生そのものと言い切れる悟り。
確かにそうだ。
どんな人達と話しをしていても、自分が目撃したことを中心に話しは展開し、実際に目撃したことの話はとても説得力がある。
戦争…高度成長…バブル…海外体験…という大きなものはもとより、自分が衝撃をうけた、自分が感動した、自分が嬉しかった、自分が悲しかった体験のそのことを目撃した自分のシーン記憶というのは、ものすごくフラットだが人生そのものかもしれない。
24歳の時に、友達と淡路島に行って寒流に流され溺れかけたことがある。そこは遊泳場所ではなく、釣り場なのだが私は釣りに飽きて、目の前の島まで泳ぎはじめた。途中で氷水をひっかいたなという感覚の後、あれよあれよと冷たい寒流の波にもまれてしまった。
あっ、これは死ぬなと思った瞬間、過去の自分のシーンが本当に走馬燈のように巡りはじめた。運動会で体操服を着ている自分、剣道着を着ている自分、百貨店の屋上でアイドルを見に行っている自分、兄と喧嘩している自分、父親に怒られている自分、それらが巡りながら、なんだ、俺の人生ってこんなもんで、こんなことしか体験できなくて、死んでいくのか、と凄く情けない気分になりつつ、まだ望みはあるかもしれないと、体の力を全部抜いて、不得意なクロールでこの寒流から逃れるチャンスをうかがっていた。
少しあせりがなくなった時点で、思い切り寒流に抵抗して、また生暖かい波に戻りゆっくりと浜まで平泳ぎで帰ることができた。浜には大きなフナムシがうじゃうじゃいたが、助かった喜びと走馬燈のように流れた自分の過去のシーンの鮮明さに圧倒されていた。「あれは何だったんだろう?」
単なる自分の生活シーンの断片だったが、そこに多くの意味が吸着している。そのシーンには自分の人生の意味が凝縮されている。体操服の自分は単純に楽しかった小学生の時、剣道着の自分はクラブに熱心だった中学・高校生の時、百貨店の屋上はアイドルの追っかけとゲームばっかりしていた友人との時間、兄と父親が出てきたのは、大学生の時、父は他界しており、その折り兄と大きな喧嘩をしたそのままが出てきている。
たった4〜5枚のシーンでも、その時の自分にとって大きく、それが自分のすべての人生ともいえる切り取られ方だった。
現象学派・メルロポンティの「眼と精神」にこんな言葉がある。
「見る者はただその眼なざしによって物に近付き、世界に身を開くのである」
見ていることは、一方的に見ているだけではなく、見られていることでもあって、見る行為というのは、世界とつながる行為であって、他者はもちろん、世界からも見つめられている重要な行為。
不思議なのは、走馬燈のように出てきたシーンというのは、見ている自分ではなく、見られている自分として、誰かに写真を撮られているようにその画像・映像として出てきていることだ。
そして溺れかけている自分から溢れ出た走馬燈の5枚のシーンというのは、それだけ記憶に濃かったということは、自分の存在にとって、大きな意味があったという他ない。
今、私が溺れかけたら、4〜5枚ですまないと思う。もっと多くの画像・映像が巡ることだと思うが、おそらく、そこに出てくるシーンは、見ている自分ではなく、見られている自分であって、世界から見つめられ、世界(社会)と関係する上で比較的大きな意味を持つものだと思う。
だから、見ることは見られることであり、見るだけでなく、自分のすべて、眼という一部の器官だけでなく、自分の身体、自分のありのままを開き、世界からも包まれる行為。
話は長くなったが、だとしたら、秋元康の言う、自分の人生は〜を目撃したこと。というのは、単に山口百恵を見た、キャンディーズを見た、ピンクレディを見た、松田聖子を見た、おニャン子クラブを見た、AKB48を見た、だけでなく、その時代すべてに身をひたし、その時代に生きた、という意味で、出発行為を強調しているだけで、とてもいい表現だと思う。
そして、目撃することが大事。
というのは、鍛冶さんのブログで延々展開した「しあわせって何だっけ?」のいくつかの問題点のソリューションにもなるような気がします。
何も大きなことをしなくていい、何も賢いことをしなくてもいい、何も価値のあることをしなくてもいい。ちゃんと眼を見開いて、何かを見ること、目撃すること、そのことだけで、ちゃんと社会とつながっているし、世界とつながっている。だからちゃんと目撃できる自分でいよう。それを連続させることだけで充分、いい人生なのだ。
そして、先日、ファミリー劇場チャンネルでAKB48チームAの大阪ライブ2時間を見ることができた。タイトルは『チームA 6th Stage「目撃者」』。
オープニング曲は「目撃者」作詞は秋元康 以下抜粋
僕たちは目撃者
決して 目を逸らしはしない
生々しい悲しみと
隠ぺいされた真実
僕たちは目撃者
悲劇を終わりにはしない
この胸に焼き付けて
時代の過ち 語り続ける
生き証人になろう今日も世界のどこかで
愛が忘れられてゆく
遠いかすかな記憶は
微笑(ほほえみ)とぬくもり
僕たちは目撃者
決して 目を逸らしはしない
今 起きた出来事を
誰かにちゃんと伝えよう
僕たちは目撃者
悲劇を終わりにはしない
この痛み 残したい
歴史の1ページ 破ることなく
NOと言い続けよう
AKB48もアイドルである限り、今のようなブームもいつか終わるが、上のようなしっかりしたコンセプトの上に成立しているアイドルグループは未だ見たことがない。
以前、自ブログで書いた「キャズムを越えたアイドルたち」はそこそこ反響があったが、ブームになったら、いろいろこじつけて語る馬鹿がいるというようなはてな感想もあった。私が、ソーシャルメディアがあまり好きになれないのはこういうことがあるからだ。翼の自ブログ記事に対しても、もっと丁寧に語れ、でなければ語るな、とか、注目度のないツイッターの場所で語っている。見られることを避けている。どこがソーシャルメディアなのかと疑ってしまう。まぁ、そんな小さなことはどうだっていい。
あなたは今、何を目撃していますか?そして、これから何を目撃していきたいですか?
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コメント一欄
朝、出かける前だったので舌たらずで投稿してしまいました。
ネットの進化を目撃している。
なるほどですね。
私もネットの中にもっと、ゆらぎが欲しいと最近よく感じています。過渡期だからなんともいえませんが、例えばツイッターを例にとりますと、ツイッターの中にはまっている人は気がついていないと思いますが、おおよその固定化した思考パターンがあります。しかも140文字という制限がそうさせている思いますが、140文字でナタをふるって、有頂天になってるところがあると思いますね。なんかみんな、いい意味でない評論家なんです。私も書く時はそうなってしまいます。提供している人には悪いけど、RSSリーダー見渡している自分にとって、余計なニュースはあまりみたくもないというのもあります。いい場合ももちろんあるんですけどね。
CNETブログで誰かが、下北沢の強盗事件のツイートのこと書いてましたけど、たかだか20万くらいの広まりで、そんなにツイッターが影響力はないよと思います。そんなことあったの、私知らんし…・笑)それを制御するのがマスコミだとかわけのわからんこと言っている。それが信頼回復になるって…。なるわけないでしょ。ツイッターの中にいると、そんな論理になってくるのです。ツイッターの中の蛙、大海を知らず、なんて言ったら怒られますけど…
マス広告は効果ないなんて、豪語している風潮も笑ってしまうんです。何十年前のこと言ってるんだろうって。現場にいると、そんな単純なマス広告なんてないし、企業の宣伝部の人も馬鹿じゃないので、効果がないと言って頭かかえている人はいません(笑)
『Q10』というドラマに家庭教師のトライのCMが入ってますが、ああいう意味は全部無視して、テレビCMなんて無駄打ちだと豪語する。ソーシャル支持の方に多いですが、自信がないものだから、メッセージの中身が大事なんて、フォローを入れて逃げてたりする。
今回は問題発言がかなり多い私ですが、始終ゆらぎといいますか、そろそろ強烈なインパクトが欲しいですね。
木田元先生は、熱心で面白く優しい先生でした。
わからないことがあれば、いつまでも語ってくれましたし、話し込んで熱くなるとチョークを煙草と間違えて吸ってしまったり(笑)天気のいい日は鉄棒の大車輪を披露してくれたりしました。
卒論評価の面談の時、
「先生、現象学を社会の中で実践したいんですけど…」
「いいね、卒論にも書いてあったね」
「なんか、がんばってみます」
「がんばりなさい、いい点つけとくから…・笑」
その時の先生の笑顔は底抜けに明るかったのを覚えています。
目撃者と傍観者の解釈はさすがですね。
上の引用歌詞の出だしはあえてはずしたのですが…
「テレビのニュースで繰り返し伝えてた
一発の銃弾が正義 奪ったこと
平和を叫んだデモ隊の中で倒れた
勇気あるその人は 何を信じていたのか?」
あの撃たれた報道カメラマンのことがテーマなんですね。こんな重いテーマをアイドルに歌わしているわけです。凄いなと思います。
「あなたは今、何を目撃していますか?そして、これから何を目撃していきたいですか?」
この時代に立ち会った者として、私は今、ネットというものが世の中を変えていく変化を目撃しているのだと思います。
人間のコミュニケーションのあり方が変わりつつある。そしてその変化はまだまだ途中にある。この先、もっともっと変わっていくだろうと思う。ターニングポイント。時代の転換点。
この変化の更にその先を、私は目撃したいと思っています。
転換点であるために、過渡期であるがゆえに、今と言う時代はゆれている。ギャップが拡大している。共通性が、コモンセンスが成立しづらくなっている。そんなことも思ったりします。
こんな時代に共通性を、普遍性をもたらすためには、人間性の根底に迫るような強烈なインパクトが必要なのかもしれないな、なんてことも。
木田教授、つい先日、日経新聞の私の履歴書という欄に連載されていましたよね。これは偶然なのでしょうか。セレンディピティというものなのでしょうか。つながり、関係性というものの驚き。
ところで、「目撃者」というこのブログ、腑に落ちるまで少し時間がかかりました。
「見る」ということについての解釈ができなかったためであるようです。
私にとっては「時代の目撃者」という言葉が「時代の傍観者」ということと同じように思えたから。このふたつの言葉の違いを考えた時に、私は腑に落ちたのです。
傍観者とはまさに見ているだけの人。そこには、見ている自分とその対象との間に関係性はない。
目撃者とは、現場に立ち会うというニュアンスがある。それがつまりは対象との関係性の違い。「現場にいる」「現場にある」ということは不可避的に自分と対象との関係性が結ばれる。第三者からみても、目撃者は関係者と呼ばれる。
日常的な言葉であってもそこに込められる意味は深い。表面的にながめていてはつかめない。
「観察者は不可避的にその対象に影響を与える」と量子力学で言われています。
派手な、目だった行動がないとしても、クラスの一員である以上、その「場」の形成に影響を与える構成要素であることは間違いない。どのピースが欠けても、その「場」は同じ絵にはならない。違うものになる。
その延長線上には、時代の構成要素としての自分がある。
そんな感じでしょうか。
「ブログを書く」という行為は、そんな風に時代とのつながりを求める行為であるのかもしれない。
「ブログというコミュニケーションの手段」<a href="http://denkiami.bloggers-network283.com/2009/03/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%89%8B%E6%AE%B5.html">http://denkiami.bloggers-network283.com/2009/03/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%89%8B%E6%AE%B5.html</a>