2014年03月

2014年03月16日

永遠の「春一番」 穂口雄右氏の感性

売れた曲には必ず理由がある。そしてそこには作者の傷跡とともに外因的なマーケティング回路が組み込まれている場合が多く、それが外に開かれている場合、共感を生んで大ヒットになるのではないかと思う。過去、ブログではそんなパターンとして、中島みゆきの「ファイト!」尾崎豊の「I LOVE YOU」北山修の複数曲などを取り上げたことがあるが、遠い昔の歌謡曲だが、今聞いても、まったく錆びず、どうしてその時代にそんな珠玉の言葉(シナリオ)を埋め込めたのかと感心する曲がある。

キャンディーズは自分の誕生日に解散したグループだから、思い出深いということもあるが、春が来る度になんとなく頭をよぎる「春一番」という曲。今年は、Youtubeでじっくり見ていたが、あらためて歌詞を聞いていて何回もひっかかった。一小節目はスーと来るのだが、二小節目の

もうすぐ春ですね
彼を誘ってみませんか
別れ話をしたのは 去年のことでしたね
ひとつ大人になって忘れませんか

もうすぐ春ですね
恋をしてみませんか


の部分

彼を誘ってみませんか、恋をしてみませんか、と告げている対象と
「別れ話〜忘れませんか」と告げている対象が明らかに違い
よく聞くと一小節目の同部分も

もうすぐ春ですね
彼を誘ってみませんか
泣いてばかりいたって 幸せは来ないから
重いコートを脱いで 出かけませんか

もうすぐ春ですね
恋をしてみませんか


自省というか、コントラスト的にはマイナー
季節的にはウォームの春に対して、クールな冬が設定されている

コードもこの部分は
Dm-C Am-G Dm-C-E7とマイナー進行になっている

おそらくこの曲は、曲先か詞先かはわからないが
この部分に、ちょっと悲しい言葉を入れたかったのではないかと思う。

上でウォームという言葉を使ったが、曲全体の言葉の選択は
ウォーム(暖かさ)を感じるものとなっている。

雪が溶けて〜
つくしの子が〜顔を出す
風が吹いて暖かさを運んで〜
ひだまりには〜
ねこやなぎが顔を〜

そして、曲全体のシナリオとしては
ウォーム(自然描写)→クール(個的な心理描写)→ウォーム(みんなへの呼びかけ)

と見事な転換手法が使われて
春だから、恋をしてみませんか、というメッセージが
薄っぺらではなく、ひとつ大人になった提案となっている。

「春一番」から「夏が来た!」の間には、穂口雄右氏の中に
レコード会社との間にかなり葛藤があり
気が進まなかったとの記事もあるが、作品は素晴らしく
「夏が来た!」でも天才的な直感で、作詞作曲されていることがわかる。

それは、「夏」をクール系で統一していることだ。
この色彩感覚が穂口雄右氏が天才である所以だ。

緑が空の青さに輝いて
部屋のカーテンと同じ色になっても
少しどこかがちがうのは
きっと生きてるからだろうなんて考えて
なぜか君にあいたい


これは男の子の心情から書かれた詞だが
夏の歌で、これだけクール系の色彩を使い
君にも会わずに内省的でありながら
砂、波、雲、白いサンダルという言葉は使いながらも
綺麗なサマーシーンを描いてる歌を他に私は知らない。

この曲の全体シナリオのトーンは、
クール(自然描写)→クール(個的な心理描写)→クール(自然描写)
で外に開かれたものはないが
夏の歌で、恋愛、失恋、の起伏もなくクールにまとめたものは
おそらく歌謡史上ないだろう。

ただ、穂口雄右氏の本業は、作曲・編曲の方であって
作詞の数は数少ない。
キャンディーズの曲でも作曲・編曲は数知れないが作詞は
「春一番」「夏が来た!」のみとなっている。

持田真樹の「恋人みたいじゃなくても」では
歌い出しが

新しいシャツを着て ホームへ急ぐ
うしろ姿が 大きいと 思った


と持田真樹の視点の特長をさり気なく描写しているし

江藤博利の「青春いつまでも」でも

晴れた日と 雨の日と 泣いた日の悔しさと
春の日と 夏の日と 夢がやぶれた切なさと


修辞性たっぷりに言葉を使っているので
作詞の技量もかなりのものだが
キャンディーズの時のように、心底の入れ込みようがない限り
というか、作曲・編曲の方が自由度が高い(意味性を嫌う)ので
そう簡単には作詞には手を出さないのだろうと思う。

「春一番」のアルバムバージョンは1975年、シングルカットされてオリコン3位となったのが1976年。その後解散発表してからりシングル「わな オリコン3位 作詞は島武実 作曲・編曲は穂口雄右」と「微笑がえし オリコン1位 作詞は阿木燿子 作曲・編曲は穂口雄右」と大ヒット曲があるが、キャンディーズを象徴する曲は、穂口雄右、作詞作曲の「春一番」だろう。
また、1976年というのは、「およげ!たいやきくん」「北の宿から」「岸壁の母」「あの日に帰りたい」「木綿のハンカチーフ」「俺たちの旅」「なごり雪」「どうぞこのまま」「東京砂漠」「青春時代」と歌謡曲の豊作年でもある。
しかし、これだけ大量にヒット曲があっても、

ウォーム(自然描写)→クール(個的な心理描写)→ウォーム(みんなへの呼びかけ)

こんな転換手法を使った曲は一曲もない。

強いて言えばピンクレディの「ペッパー警部」「S.O.S」あたりが今までにないフィクションラインを引いて新しい試みをやっていた。それ以外は演歌もニューミュージックも含めて日本人が好きそうな、後ろ向きの曲ばかりだ。

もうすぐ春ですね
彼を誘ってみませんか
別れ話をしたのは 去年のことでしたね
ひとつ大人になって忘れませんか

もうすぐ春ですね
恋をしてみませんか


1976年にこのポジティブさを表現するのは本当はありえないのだ。

先日、香港取材に行く前に、穂口雄右氏から「飛行機の中でもマスクした方がいいですよ」とツイッターでメッセージが来た。ただただ、感謝の気持ちしかなかったが、穂口雄右氏というのは、相手の気持ちにすぐなれる、自分では楽天家と称されていたが、どこまでもポジティブな人柄なのだろう。

毎年、春が来るように
「春一番」も永遠。
こんな幸せな歌は、今後もあまり出てこないような気がする。











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30数年広告畑で畑を耕しています(笑)コピーライターでありながら、複雑系マーケティングの視野からWebプランニング、戦略シナリオを創発。2008年2月より某Web会社の代表取締役社長に就任。snafkin7としてのTwitterはこちらからどうぞ。Facebookはこちらから。
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