2007年07月

2007年07月27日

暁の寺 三島由紀夫の現在評価

34296f3d.jpgタイに行くと、意外と老夫婦の日本人が訪れており、その方たちは三島由紀夫の豊饒の海4部作の3部「暁の寺」を読んで、タイに興味を持ったという人が多いらしい。
その話を聞いて、私も一応読んでみた。「バンコックは雨期だった。」という出だし。「トンネルを抜けると、そこは雪国だった。」みたい(笑)その後からは、同じくライターとして驚愕だらけだった。いくらインドからタイに長期滞在していたとはいえ、恐ろしい取材力と資料探索力と記憶力。死に方は単純だったにしろ、やはりこの人は自分でも言ってるが天才なんでしょう。
豊饒の海4部作は、20歳でみんな死んでいって輪廻転生していくシリーズですが、この暁の寺ではジン・ジャンがコブラに噛まれて死ぬのですが、ギョエー、タイにはコブラがいるのかと改めてびっくりした次第です。でも三島が描いているタイは、イイ頃のタイで今みたいな中途半端な都会化が進んでいない頃。

さすが文章というか描写力は凄いのですが、生きる気力のないところが、やはりチラホラ見え隠れします。それは創造の世界へのノメリカタが尋常ではないところからうかがえます。この人はやはり現実世界にあまり興味がないというか、興味がうすいように感じます。豊饒の海シリーズで、主たる人物がコロコロ死んでいくあたり、輪廻転生の世界というよりも、早く死にたい早く死にたいの裏表現なのかもしれません。

早くして自殺した作家にはみんな一つの共通点があります。三島由紀夫、太宰治、芥川龍之介、彼らの共通点は乳母に育てられ、直接、母親から乳を与えられていない可愛そうな面があります。彼らには、汚い現実を直視する元気がないといいますか、乗り切る意欲がありません。しばらくは文学の世界の中で生きることができるのですが、ふと現実に戻ると、やりきれない、やりきれない感覚でいっぱいになるのでしょう。

ローマ帝国の時代の実験で、奴隷の赤ちゃんを一回も抱っこせず抱擁せず、乳も直接しゃぶらせないと、すぐに死んでいってしまうようなことが実証されていました。ホント恐ろしい実験をするものですが、母親と赤ちゃんの関係とは、それほど大切なんですね。直接乳をやることは生きるエネルギーを生涯分、注入しているに等しいのです。

三島、太宰、芥川、彼らには残念ながら、生きるエネルギーが注入されていませんでした。文学にのめりこみ、一時現実を忘れることが至福の時だったのでしょう。三島にしても、文学で3回も輪廻転生すれば飽きてきたのでしょう。三島由紀夫が英語でしゃべってる映像を見たことがありますが、ネイティブの細かいイントネーションを完全コピーできるほど達者なのですが、凄く冷たい感じがとてもしました。いい加減さが全くないのです。完璧主義といえばそうなのですが、彼は自分の存在を忘れるほど何かに打ち込むのが好きなのです。自分の悲しい存在を思い出したくなかったのでしょう。

学生の時、週刊平凡の編集の手伝いをしに、市ヶ谷の自衛隊の駐屯所の横を通って、大日本印刷の校正所に通ったりしていました。市ヶ谷のそこを通る度に、三島はここで死んだんだなって思ってました。すると夜中、外出禁止の塀を乗り越え、屋台のラーメンを食べに来る自衛隊員が結構いました。まぁね、いいんだけどね。あまりにも落差がはげしかったので、あきれていました。

暁の寺。現実に戻りたくない著者が、どうでもいいことに凄くこだわって停滞して書いている場所がかなりあります。いいライターだったのに、おしいな、といっても仕方ないことですが…

しかし、それを読んで未だに日本の老夫婦をタイに行かせている、というのは凄いことだと思います。




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30数年広告畑で畑を耕しています(笑)コピーライターでありながら、複雑系マーケティングの視野からWebプランニング、戦略シナリオを創発。2008年2月より某Web会社の代表取締役社長に就任。snafkin7としてのTwitterはこちらからどうぞ。Facebookはこちらから。
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